
なんでモニターなのに私がホテル代まで支払わないといけないの?
無店舗型性風俗特殊営業(デリヘル)において、業務委託契約のセラピストに対するホテル代負担や特定ホテルの指定は、風営法違反や偽装請負など複数の法的リスクをもたらします。
本記事では、ベテランオーナー、新人セラピスト、お客様の対話形式で、これらの法的問題点を分かりやすく解説します。
個別具体的な事案では事実関係や運用の詳細により判断が変わるため、実務にあたっては専門家(弁護士・行政書士等)への確認が必要です。
【参考情報】
→ e-Gov 法令検索:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
→ 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
→ 警視庁:風俗営業等の業務の適正な運営に関する情報
動画でゆっくり解説
業界経験者と初心者の対話から学ぶ実践的知識



やあ、新人ちゃん。今日はお客様も来てくれているから、デリヘル業界での法的リスク、特にホテル代の負担や指定の問題について話そうか。



よろしくお願いします!私、まだ入店したばかりで、練習のためのモニターさんを探しているんです。先輩セラピストからは「モニター代金は無料で、ホテル代もお店が負担するから」って言われたんですけど…



そのモニター募集を見て来たんですが、そういうサービスって法的に問題ないんですか?



いい質問ですね。実はそこには大きな法的リスクが潜んでいるんです。順番に見ていきましょう。
風俗営業適正化法(風営法)の観点から見た問題点



風営法って何ですか?



デリヘルは正式には「無店舗型性風俗特殊営業」として、「派遣型ファッションヘルス」の届出をしています。ここでポイントなのは「無店舗型」という言葉です。



それがホテル代と何か関係あるんですか?



はい、大いに関係があります。「実質的な管理・指揮」の証拠になってしまうんです。
例えば、新人ちゃんのケースで、「このホテルでモニターを実施してください」と店側が指定し、さらにホテル代を店が全額負担する。
それは単なる仲介ではなく、実質的な指揮命令があったと判断される恐れがあります。



え!でも便宜上の指定だと思ってました…



法律の観点では、それは「許可条件の逸脱」や「偽装請負」の問題になります。
風営法では無店舗型の営業はあくまで客引きや仲介の範囲内であることが前提なんです。
店側がホテル利用まで管理すると、実態が「直接管理型」となり、届出時の許可条件に違反することになります。



違反するとどうなるんですか?



違反が認定されれば、風営法第45条などに基づいて、6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金などの罰則を科されるリスクがあります。
売春防止法の観点から見た問題点



売春防止法も関係あるんですか?私たちは売春はしてません…



実際の業務内容はさておき、法的な解釈の問題です。売春防止法は客引きや周旋行為を禁止しています。
店側が特定のホテルを指定し、そのホテル利用を実質的に従業員に強制することで、性的接触を組織的に助長していると見なされる可能性があります。



具体的にはどういう状況が危険なんですか?



例えば、新人ちゃんが自分の意思ではなく、店側の指示に従って特定のホテルを利用し、そこでモニターさんと何らかの接触を行うケースです。
これが売春防止法上の「周旋」または「組織的な助長」に該当すると、懲役3年以下などの刑事罰が科される恐れがあります。



そんなに厳しいんですね…怖いです。



さらに、もしホテル側と裏で収益を分配するなど利益を共有している場合は、双方が共同正犯として追及されるリスクもあります。
労働法(偽装請負)の観点から見た問題点



新人さんは業務委託の契約なんですよね?それなら労働法は関係ないのでは?



そこが大きな誤解なんです。契約形態が業務委託であっても、実態として従業員の勤務場所や時間が店側によって厳しく管理されると、実質的な雇用関係と認定される可能性があります。



どういう場合に雇用関係と認定されるんですか?



例えば、「このモニター施術は必ず〇〇ホテルで、この時間に行ってください」と具体的に指示し、ホテル代も店が全額負担している場合です。これは労働基準法上の雇用関係と認定される可能性が高いです。



それがダメだと、どんな問題が起きるんですか?



未払い残業代の支払い請求、社会保険加入義務、最低賃金法違反などの問題が一気に発生します。
また、業務委託契約を装いつつ実際は従業員として管理している場合、「偽装請負」として行政指導や罰金の対象になるリスクもあります。
旅館業法・税法の観点から見た問題点



まだ他にも問題があるんですか?



はい。店側がホテル代を負担する場合、旅館業法や税法の観点からも問題が生じる可能性があります。



旅館業法との関係について教えてください。



「無許可の宿泊施設利用の幇助」という問題です。
もし新人ちゃんがモニターさんと利用するホテルが通常の宿泊業の許可を得ていない施設だった場合、店側がその利用を助長することで、旅館業法違反の共犯と認定されるおそれがあります。



税法上の問題点もあるんですか?



ホテル代を店側の経費として処理し、実際の売上と乖離させるなどの不適切な会計処理を行えば、法人税法や消費税法違反として、追徴課税や刑事告発のリスクがあります。
具体的な事例を見てみましょう



では、新人ちゃんのケースを具体的に検討してみましょう。



私の場合、練習のためのモニター様を募集していて、モニター代金は無料、ホテル代金もお店が負担するという形なんです。



これは典型的な危険ケースですね。モニターという名目であっても、「店側がホテルを指定し、ホテル代を全額負担する」という形態は以下の問題があります。
- 風営法上、実質的な指揮命令の証拠となり、無店舗型営業の枠を逸脱していると見なされる可能性がある
- もしモニターとの間で何らかの性的なサービスが発生すれば、売春防止法上の「周旋」に該当する恐れがある
- 勤務場所・時間の指定によって労働者性が認定され、偽装請負と判断される可能性がある
- ホテル代の経費処理の仕方によっては、税法違反のリスクもある



デリヘル店でもこういうモニター制度をよく見かけますが…



別の例も考えてみましょう。
【例:ホテル指定によるケース「バリアンが女風やったら最強?」】



違う角度から解説します。例えばバリアンリゾートのようなラブホテルチェーンが、「無店舗型性風俗特殊営業」の届出をして派遣型ヘルスも運営し、自社ホテル利用時に割引を提供するようなケース。



それって便利そうに聞こえますね!同じ会社が両方やれば、ホテル代も安くなって効率的じゃないですか?「バリアンホテル利用なら20%OFF」とか!



確かに利用者としては魅力的に感じますが、法的にはどうなんでしょう?



実はこれ、かなり危険な橋渡しなんです。まず風営法の観点から見てみましょう。
風俗営業適正化法(風営法)の観点から



風営法では、ホテル業(旅館業)と風俗営業は基本的に別々の営業形態として規定されています。単一の事業者がこれらを兼業する場合、特に注意が必要です。



兼業自体がダメなんですか?



兼業そのものが絶対に禁止されているわけではありませんが、「業態の混同」や「不当な誘引」として問題視される可能性が高いです。
特に、バリアンのような大手ホテルグループが自社ホテルを利用する場合にのみ割引するという形態は、風営法上の「客引き」や「不当な勧誘」に該当する恐れがあります。



それはどういう理由からですか?



風営法の第28条では、無店舗型性風俗特殊営業を営む者は「人を著しく羞恥させ、又は困惑させるような方法で客を誘引してはならない」と規定しています。
自社ホテルへの誘導を経済的インセンティブを使って行うことは、不当な誘引として解釈される可能性があります。
売春防止法の観点から



売春防止法との関係は?



これが最も重大な問題です。売春防止法では「場所の提供」と「周旋」が厳しく禁止されています。
例えば、バリアンが派遣型ヘルスも運営し、自社ホテルを割引料金で提供する場合、これは実質的に「売春の場所提供」と「周旋行為」の両方に該当する可能性があります。



なるほど、ホテル側が性的サービスの場所を積極的に提供していることになりますね。



そうです。この場合、「ホテル事業者が性的サービスの提供場所を確保し、その利用を積極的に促進している」と解釈され、売春防止法第5条(周旋)や第10条(場所の提供)違反として、懲役刑を含む厳しい刑事罰の対象となる可能性があります。



具体的にはどのくらい厳しい罰則なんですか?



売春防止法では、周旋行為に対して「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」、場所の提供に対しては「5年以下の懲役または10万円以下の罰金」という厳しい罰則が定められています。
業態の独立性と兼業の問題



法人を分けて運営すれば問題ないのではないですか?



法人格を形式的に分けるだけでは不十分です。実質的な運営主体や利益帰属先が同一であれば、「形式的な分離に過ぎない」として、実態に即した判断がなされる可能性が高いです。
例えば、バリアングループが「バリアンホテル株式会社」と「バリアンヘルス株式会社」という別会社を作っても、実質的な支配関係や利益の流れが同一であれば、法的リスクは残ります。



じゃあ、どうすれば合法的にできるんですか?



完全に別個の独立した事業者として運営し、相互の優遇関係を持たないことが最も安全です。例えば:
- 完全に独立した経営体制(役員・株主の重複なし)
- 資金の流れや利益配分の完全な分離
- 特定ホテルへの優遇や誘導を行わない
- 相互割引などの特別な関係性を持たない
それでも、風俗業とホテル業の兼業は常に監視の対象となりやすいという点を認識しておくべきです。
まとめ



要するに、店側がホテル代を負担したり、特定のホテルを指定する行為は、次のような複合的な法的リスクをもたらします:
届出時に認められた無店舗型性風俗特殊営業の枠を逸脱し、実質的な管理・指揮を行っていると認定されるリスク
組織的な売春助長として評価され、刑事追及の対象となる恐れ
業務委託契約の形式を装いながらも、実態が店側の厳しい指揮命令下にある場合、偽装請負として労働者性が認定されるリスク
無許可宿泊施設の利用幇助や不適切な経費処理による行政処分や刑事・民事の追及リスク



では、モニター募集はどうすれば法的に安全にできますか?



理想的には――
- ホテルの選択はモニターさんが決める、迷ったら新人ちゃんと一緒に探す
- ホテル代はモニターが実費で支払う
- 店は特定のホテルを指定せず、あくまで推奨(ホテルリスト等)にとどめる
- 出勤時間や方法についても過度な指示や拘束を行わない
こうした点に注意すれば、多くの法的リスクを軽減できます。もちろん、完全なリスク回避は難しいので、法律の専門家に相談することをお勧めします。



なるほど、ユーザー側としても知っておくべき内容でした。女性用風俗(デリヘル)の仕組みをより理解できました。



私も気をつけます!モニター募集の方法を見直してみます。



みなさんが法律を理解し、守ることで業界全体がより健全になります。風俗業界も他の業界と同様、コンプライアンスが重要な時代なんです。ぜひ法律を守りながら安全に営業していきましょう。
個別具体的な事案では事実関係や運用の詳細により判断が変わるため、実務にあたっては専門家(弁護士・行政書士等)への確認が必要です。
【参考情報】
→ e-Gov 法令検索:風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
→ 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
→ 警視庁:風俗営業等の業務の適正な運営に関する情報